ゲーテアヌムの日々③




スペインから戻って、一週間。
今日はイースター休暇最後の日。
帰省したり、旅行したりしていた人達が戻ってきて、静かだった寮に活気が戻ってきました。
ドミトリー前のヤギさんたちも嬉しそう。

前日夜更かしして、読んだばかりの本をまとめていたから、起きたのは9時半でした。メキシコに住む友人と2時間近くスカイプして、気付いたら11時。


さすがにお腹がすいてキッチンへ行くと昨日戻ってきたフラットメイトのマリアがいました。パンにパテをぬりアボガドをのせて簡単な朝食をつくって、2人で食べます。マリアの休暇中の本当にたくさんの出来事や人生をかけてメキシコへ移り住んだ私の友人の話をしていると、さらに隣の部屋のフラットメイト、アンジュリーも帰ってきました。お茶を飲みながら休暇の話、さらにシュタイナーの惑星ごとの人類の進化や前日の祭典に関するセミナーに話が及んで、結構ディープな話題が弾みました。そろそろ宿題をせねばと解散したのが14時半。


部屋に戻って、メールに返信したり、少しばかり本を読んでノートをとっているとあっという間に17時。腰がいたくなったから、ちょっと散歩しようとこの日初めて外にでます。上の階に住む、アルメニア人のナリネに呼び止められて、散歩行くなら一緒に行こうと誘われました。友人だというチェコ共和国出身のミリカが一緒です。15年スイスに住むという彼女はミュージシャン。話しやすい人で、コースメイトのおかしな話、ナリネがシャルトル旅行でワサビの塊をしらずに食べた話、ミリカが隣接する村アーレスハイムにある教会のオルガンをひいた話などしながら、ゲーテアヌムの小道を上って、近くの湖にいきます。

なぜか茶道の話になって、すごく興味があるというので、帰ってからお茶に招待しました。マリアも一緒に、ミリカのもってきてくれたケーキを食べて、お抹茶を飲んでもらいます。とっても喜んでくれました。

そして話はソビエト時代のアルメニアやチェコ共和国の話になりました。ゴルバチョフ書記長によってソビエト連邦は終結、冷戦に終わりが訪れた・・・と理解していたけれど、それを生きてきたナリネやミリカの話はそんな単なる歴史の教科書の記述のようにはいきません。2人の話は体験してきた人のみが語れるものです。時に笑ったり、深刻になったり、それでも暗くならない2人の話は、それゆえよけいに現実味をもっています。

ソビエトの支配を受けていた時代は校則が厳しくて、レーニンのバッジをつけ、首に巻く赤いスカーフは毎日洗ってアイロンをかけなければならなかった・・・そしてそのバッジは子どもならレーニンの子供時代の写真、若い人は若きレーニンの写真、年を取った人は晩年のレーニンの写真つきだったとか、おじさんはいたずらっ子で20歳年上で、校長だったお姉さんに靴が汚いから磨いてきなさいと言われ、お姉さんの前に戻ってくるとそのスカーフが汚れていて(スカーフで磨いたから)大層怒られたとか(お姉さんが校長でなければ結構深刻な懲罰をうけただろうと言っていました)、おじさんに負けないいたずらっ子のナリネの話はほんとかなと思うときも時々あるくらい、それでもソビエト時代の教育水準は今よりずっと高かったのだというナリネの声音には、今のアルメニアへの思いがにじんでいます。

ソビエト崩壊後すぐ、アルメニアはアゼルバイジャンとの戦争に入りいました。そしてそれは1996年まで続きました。川をはさんでにらみ合う両国軍には、ロシアからのヘリコプターが舞い降りて、それぞれに食料と武器を渡していったといいます。思わず息をのんで絶句する私たち。お互いに戦うようにってね、とナリネは淡々と言います。イランがガスのパイプラインを止めてしまい、火をおこせない冬をすごしたこと。まともに料理もできず、お風呂にも入れない日々・・・アルメニアの森林の80%がこのころ切られたと言います。今少しずつ植林が始まっているそうです。けれども、ロシアの行動は読めず、ウクライナで起こっているようなことがいつ起こってもおかしくない状況だと言いました。

ナリネたちが帰ってから、さて夕食をつくろうかと思っていたら、下の階のキースから電話。元シェフでドイツ人のアレクサンダーがヌードル?(つまりパスタ、しかも手作り!)を料理したから食べにこないかと誘ってくれました。喜んでいきます。

キースの同じアートスクールのゆみこさんと、コース3年目に在籍するスェーデン人のヘンリックの2人がちょうどいいタイミングでやってきて5人でいただきました。スペーネだったかな、この地方の家庭料理だとか。パスタは手作り、大皿にパスタ、クリームソース、パスタ、クリームソースと重ねて、オリーブオイルとバターで茶色くいためた玉ねぎを乗せ、さらにオーブンで焼く・・・と、とても手間がかかっています。

休暇中のことやコースの宿題やこれからの内容、コースが終わってからのことなどなど、話題はつきません。食事の後はおいしいチョコレートまでだしてくれました。私もお礼にとチョコをお供に、お抹茶を点てて飲んでもらいました。カフェイン入ってるよ、と忠告しつつ。ちょっと前に点てたばかり、お道具も出しっぱなしだったから取ってくるのも簡単だったのです。飲み方の基本を教えて、自分で茶筅をふってもらうと、それぞれが自分のこだわりをだして、実践。楽しい時間になりました。

ようやくみんなが立ち上がったのは22時半。
今日は珍しく、なんだか賑やかな一日でした。そして休暇の最後にふさわしい、いい一日。
明日から3学期。
2014年のイースターはいつもより遅かったので、2か月と少し。
ひなたぼっこするトカゲなみに、さっと過ぎていくでしょう。

この2ヶ月で私はどんな決断をしているだろう。みんなはどうしているだろう。
どんな決断でも、それがその人の決断。ここにいる人は誰も、他人の言葉に頼って未来をきめたりはしません。アドバイスは求めても、判断するのは自分。変えるべきことは変えて、変えられないことは受け入れて、生きる。それだけなのでしょう。



愛する神よ、変えられるものを変える力をあたえたまえ
そして変えられないものを、そのままにしておける勇気と平静さを与えたまえ
そして、変えられることと変えられないことを見分ける叡智を与えたまえ
(アノニマス「平安の祈り」)







私のここでの課題は、その力、勇気と平静さ、そして叡智を少しでも身に着けること、なのだと思います。











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